Saturday October 24, 2009 at 20:30
柳下毅一郎×宇多丸フロム・ヘルトーク@新宿ジュンク堂 10/23
みすず書房が初刊行のコミック、アメコミ界の鬼才アラン・ムーアによる「切り裂きジャック」モチーフの「フロム・ヘル」を初のイベント顔合わせで二人が徹底的に語り尽くす。
いやぁ隅から隅まで幸せなイベントでありました…文句の付けどころ無し!
翻訳者柳下先生の豊穣な知識に裏打ちされた解説、宇多丸さんの的確な仕切りと展開! 柳下先生のリッパロロジー(切り裂きジャック学)的倫敦”きぃ散歩”写真トーク!「キチガイ」「殺し」「娼婦」だのの言葉がみすずの本に関しジュンク堂に飛び交いまくり(笑)。
・ムーアから絵描きのキャンベルへのスクリプトが特典として配られる、これが細かい! ヒトラーの父母が行う妙にリアルなセックスの場面では「吹き出しの位置を父親寄りに」とか「正常位が望ましい」とかセックル体位まで指定(笑)。さぞかし絵描きさんはブチ切れるかと思いきや、意外と独自の調べによる変更も加えている
・日本とアメコミの漫画表現の違いについて、特にムーアの特殊性(1コマの中に異常な情報量詰め込みのため読み飛ばせない)・FHに限らず、ヒントン「第4の次元とは何か」で考察されている時間と次元とのありようがムーアの作品世界で通底して描かれている 。「すべての事象は既に起こったことである」「事象は時と場所を超えて顕現しうる」。
・それを受けた上で描かれるラストの”ジャック”の幻視世界について。「ウォッチメン」のDr.マンハッタンを主人公に据えて人間世界を見たらこうなるのではないか
・読んだら誰もが気になるあの14章ラストの解釈について! やはりこの本は補遺、補遺2の漫画も含め再読3読してから楽しみが始まるのだな…FHについてが一段落したら柳下先生のムーアお宝じまん(成長したアリス、ドロシー、ウエンディら「有名主人公3人娘」が語る、自分たちの冒険って全て性的体験だったのよね…なモロポルノをエゴン・シーレら様々な画家のタッチそのままにフルカラーで描く「ロスト・ガールズ」やばいよ…)など。
あのアニメシンプソンズにムーアが登場した回の紹介! 「オルタナティブ・コミック」の巨匠達がサイン会しているところにムーア、ちゃんとノリノリで声も当ててるのが笑える。
ムーアはその後本当に「魔術師」となっているのだが、このアニメのことを見てもどこかとぼけて「な〜んちゃって」と思っていそうな所が却って深い。FHラストでも示唆される「精密に関連しながらスイス時計のように精緻に組み立てられた世界…しかし、この世には全く不可知な闇の世界もあるのではないか?」という世界観がたまらなくクールだ。
ムーアが本書で切り裂きジャックを取り上げたのはジャックのフーダニット的謎解きなど目標ではなく、人間存在そのものに宿る悪意を描きたかった(次元を超えて顕現する「裂け目」の象徴として)のではなかろうか。
ラストの老人二人の会話にもあるように、そのすぐ後に個人の手になる連続殺人よりさらに狂気の深い殺戮の20世紀が始まるのだから。「真の闇」を描くのに、産業革命の息吹も宿るヴィクトリア王朝末期は最適ということなのだろう(だからフロム・ヘルで描かれる暗いシーンは本当に「真っ黒」!)。
だがアレイスター・クロウリーに私淑するだけあってムーアの魔術には根本の根本のところで人間礼賛の部分があり(性の解放、ドラッグによる意識解放もありあり…ヒッピーでもあるのね)、それがまたこの稀代の魔書にも一筋の光明を投げかけている。
光と闇が分ちがたく同居しているのが魅力なのだ。
また読み返さねば…
※帰途、西武新宿線高田馬場駅にて眼前で男性が突き飛ばされ頭を強打、流血失神して警察沙汰になる事件を目撃。作品の禍々しい部分が現実に浸食して来たかのような戦きを感じました…
This post was reblogged from The Days of Roses&Geckoes.